パパーノなんなんでしょう

No.7
2003/4/20

"There must be some way out of here," said the joker to the thief,
"There's too much confusion, I can't get no relief,"
(Bob Dylan,"All Along The Watchtower")

今回のなんなんでしょうは、
  宮本武蔵「五輪書(岩波文庫)」(岩波書店, 1985 )
 or くまにち.コム 宮本武蔵
です。


生兵法は怪我のもと2

(1)こんな世の中では

先を見通すのは難しいのですが、新商品の企画で問われるのは、将来の絵です。開発した商品が、 すぐに儲かるというのは当たり前、それだけではなく未来永劫その商品で勝ち続ける、そういう企画であるか問われるのです。 未来永劫だなんて、大げさじゃないですか、と思う人もいるかもしれませんが、 新製品に対する期待はそれほど大きいのです。
 事業開始でいきなり黒字で研究開発投資もペイでき、設備投資の償却が終わった後は利益率がグッとあがる。 それに対し、他社も当然、技術を向上し、ギリギリのコストで対抗してくるだろう、赤字覚悟で攻めてくるはずです。 そんな他社の攻勢に対しても、今の技術をどんどん進化させることで、勝って勝って勝ちまくる、 さらに、他の既存商品にもその技術が波及していって、それらの事業ドメインでも勝って勝って勝ちまくる。 そんな企画でなければ、開発する意味はない。
 ああ、神様、どっかにそんな企画を短時間で作り上げる手法はないものでしょうか? しかも私が今持っている技術ですぐに完成できれば言うことなしです。

(2)ところで

NHKの大河ドラマの「武蔵MUSASHI」が評判です。宮本武蔵といえば、佐々木小次郎との巌流島の決闘が有名です。 試合開始にわざと遅れてきて、相手をいらいらさせておいて、さらに、小次郎が刀の鞘を放り投げたの見て、 「小次郎敗れたり」と言い放ち動揺させたうえで、木刀で勝ったというくだりは有名です。 どこまで、創作を含んでいるかよくわかりませんが、勝負に際して心理戦も重要だということです。 また、槍の使い手との御前試合では、相手が殿様に向かってお辞儀をしている間に、とびかかって倒してしまい、 「生死を賭けた試合に油断しているほうが悪い」、と威張っていたということで、もっともだ、 と思う一方でセコいと思う人もいるでしょう。しかし、勝つことが職業であるならば、どんな状況であっても、 どんな手段でも勝たなければなりません。

「試しにかかってきたらどうだ、この野郎」
私は立ち上がった。「レスターいい物を見せてやろう」拳銃を抜いて彼の額に狙いをつけた。
「これは、38口径のコルト・ディテクティヴ・スペシャルだ。俺が引き金をひいたら、 お前がいくら武道に練達していても、まったく役に立たないんだ。」
・・・
「おめえがその拳銃さえ持っていなきゃ」レスターが言った。
「ところが、その点が問題なんだよ、レス・ベイビィ、俺は銃を持っているんだ。 ウォリィ・ホッグは拳銃を持っている。お前は持っていない。プロと言うのは、 拳銃を持っていて相手より先に抜く人間なんだ」
(ロバート・B・パーカー、菊池光訳「失投」)

(3)さて、

私は京都の左京区に住んでいて、毎日、通勤で叡山電車を利用しています。 沿線の一乗寺下り松にある八大神社は、 宮本武蔵の開悟(さとり)の地だそうです。叡山電車もNHKのポスターをあちこちに貼って宣伝に努めています。 近くに宮本武蔵が吉岡一門数十人と決闘した地があるのです。数十人を相手にして勝つとは恐ろしい。 そこで私も、ブームにのって「五輪書」を読みました。地の巻の冒頭で、簡単に生い立ちが書いてあります。 若年のむかしより兵法の道に心をかけ、十三歳で初めて勝負をして勝ち、十六歳で但馬の強力の兵法者に勝ち 、二十一歳で都へ上り、吉岡一門と三度戦って勝ち、その後、二十八歳くらいまで、あちこちで、 諸流の兵法者と六十回以上の勝負をしたが、勝ち続けた。さらに三十歳過ぎに自らを省みて生まれつきの才能だけで 勝っているような気がするので、道理を得ようと思って鍛錬し、五十歳くらいで兵法の道を極めた。 極めてしまったので、歌茶書画細工などをして過ごしたが万事において我に師匠なし、つまり、一度 道を極めたものにとっては、どんなことにでも通じるので他の道を極めることも容易だ、という ことなのでしょう。宮本武蔵は勝って勝って勝ちまくった人で、五輪書は、その実(まこと)の道たる 兵法を説いた書です。勝ちまくる秘訣が書かれている本書は悩める技術者の必読の書といえましょう。

(4)一口で内容を

解説することはできませんが、印象に残った内容を紹介しておきましょう。とにかく、勝負は どんな相手に対しても勝つためにするのであって、道具、構え方はそのために合理的に考える必要がある。 練習も、とにも角にも、人をきるとおもひて、太刀をとるべし。多人数を相手にするときには、相手の様子をよく見て 強いところ、弱いところを見極め、意表をついた攻め方も混ぜながら、攻め込むこと。左右に広く太刀を構えて(武蔵は二刀流)、 敵が四方より攻めてきても、一方へ追い回すように攻めること。等々。実戦の様々なことがらが具体的に詳細に書かれています が、ま、はっきり言ってあまり、商品企画には役に立ちません。少し抽象化して考えても、ビジネス書を 読みなれている人にとっては、目新しい内容はあまり見当たらないかもしれません。 参考までに、このページの下方に 「道を行う法」を引用しておきます。
全般に書かれていることは、先手を取って こちらのリズムで攻めることがいかに重要かということです。そのためには、相手をよく見極める他に、相手を怒らせたり、脅したり 、油断させたり、いろいろな手段も具体的に書かれています。

(5)先制攻撃といえばアメリカ

のイラク攻撃を思い出させます。常に先手をとって、脅したりすかしたりし、いきなり飛び道具で 先制する。ひょっとして、NHKの大河ドラマは、アメリカを正当化する心情を、知らず知らずのうちに 国民に浸透させるために「宮本武蔵」を制作したのか。ってこれは深読みしすぎ、でも、ありえないとは 言い切れない。知識人と言われる人たちのなかで五輪書を手にとる人は増えるだろうし、 五輪書の解説本や、五輪書からヒントを得たビジネス本もたくさん出版されているではありませんか。
ところで、五輪書を読むなんて、難しいことを、と思うかもしれませんが、 、岩波文庫版は、現代語ではわかりにくい単語や用法を 脚注をつけてくれているので、なんとか読めます。活字が大きく、150ページほど、それに、一応、日本語だしね。


若手の技術者のためにいくつか引用しておきましょう。

けふはきのふの我にかち、あすは下手に勝ち、後は上手に勝つ

とおもひ、少しもわきの道へ心のゆかざるやうに思うべし。
千日の稽古を鍛(たん)とし、万日の稽古を練(れん)とす。
千里の道もひと足宛(ずつ)はこぶなり
・・・・・今回は説教っぽくなってしまひました。これもNHKの策略か..。



追記
(1)八大神社は、今年、宮本武蔵のブロンズ像を「八大神社御鎮座七百十年を迎える平成十五年(2003年)の記念事業」 として建立しました。違うかもしれませんが、NHKの大河ドラマとリンク していることと思われます。神社にあるからといって、しかも、歴史上の人物にゆかりのものだといって、 古くからある由緒正しいものであるとは限りませんよね。 当然、おみくじやお守りその他の売り上げを伸ばす「勝つための戦略」であっても構わないのです。
(2)宮本武蔵が晩年を過ごした熊本は、かなり力を入れています。上に紹介した くまにち.コム(熊本日日新聞っていうのがあるんですねぇ)を見ると 地域おこしで巨大武蔵像なんかが建立されたそうです。武蔵ワインもあるようで..。みんな勝つために必死です。
(3)熊本県の美術館には武蔵が晩年に描いた絵が 展示されているようで、絵も一流だったことがよくわかります。
  「鵜図」
  「紅梅鳩図」
(4)岡山県も負けてはいません。派手なホームページですよね。 岩波文庫の補注では、出生は諸説あって明らかではない、としています。 兵庫県の説もあるようです。宮本武蔵ゆかりの地は日本全国にあるようですが、ここでは、紹介しきれないようです。 日本経済へすごい波及効果があったようです。
(5)巌流島って、どこにあるか知ってますか?私は今まで、信州あたりの川の中州、をイメージしていました。 どうしてでしょうね。 下関にある島です。巌流島をキーワードに検索するといろいろあるもんです。そんなに有名な島を勘違いしていたなんて、 私としたことが..。


4コママンガ<ハムとラン> とキャラのページ
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道を行う法
  第一に、よこしまになき事(実直な正しい道)をおもふ所
  第二に、道の鍛錬する所
  第三に、諸芸にさはる所
  第四に、諸職の道を知る事
  第五に、物毎(ものごと)の損得をわきまゆる事
  第六に、諸事目利(めきき)をし覚ゆる事
  第七に、目に見えぬ所をさとってしる事
  第八に、わづかなる事にも気を付くる事
  第九に、役にたたぬ事をせざる事